研究内容

心筋細胞の拍動と情報通信の学理

再生医療分野では、現代人の主要な死因である心疾患の画期的な治療法として、心筋細胞シートを患部に貼付する手法が開発されています。しかし、移植側と被移植側の同期不全による不整脈が懸念されており、接触する心筋組織間の同期が成否の鍵を握ると考えられています。本研究室では、大阪大学の 明石 満 教授との研究連携の中で発見した心筋細胞の拍動に関するスケーリング則を起点として、同志社大学の 山本 浩司 教授(中野研OB)ならびにベルリン工科大学の Valentin L. Popov 教授との緊密な連携のもと、心筋細胞間の情報通信の学理を探求しています。


心筋細胞の拍動【ストレスを受ける細胞が働く|ストレスのない細胞は怠けている】

☆ K. Nakano, N. Nanri, Y. Tsukamoto, M. Akashi: "Mechanical activities of self-beating cardiomyocyte aggregates under mechanical compression", Scientific Reports, 11, 15159 (2021).

☆ V. L. Popov, K. Nakano: "Contact mechanics of an unstable viscoelastic medium with retardation as a model for mechanical activation and synchronization of cardiac spheroids", Tribology Online, 18, 319-322 (2023).


心筋細胞の拍動:幹細胞(iPS細胞)から分化した心筋細胞を凝集し、自律的に拍動する心筋スフェロイド(直径:数百ミクロン)を作成。この小さなスフェロイドを顕微鏡下で圧縮しながら拍動力を計測する実験装置を開発。獲得したデータを整理して、拍動エネルギーがスフェロイドの直径と圧縮量の積の1.5乗に比例することを発見。この冪乗則を接触力学で読み解き、スフェロイドを構成する心筋細胞のうち「ストレスを受ける細胞が働く」こと、つまりは「ストレスのない細胞は怠けている※」ことを突き止めた。(→論文を読む


※まるで「社会の縮図」を見ているようでもある。細胞レベルでそうなのだから、細胞で構成される我々がそうであることもおぼろげに納得できる。